AI時代にデザインは不要になるのか? むしろ必要になる「経験」と「仕事をデザインする力」
AIで資料も、Webサイトも、業務アプリも、驚くほど早く形になります。それなのに、会議やプロジェクトが前へ進まないことがあります。
止まる場所は、制作ではありません。
「誰の、どんな困りごとを解くのか」「どの案を選ぶのか」「失敗したとき、誰が直すのか」という目的と判断です。
一見すると、これは「AIが進化すればデザイナーはいらなくなるのか」という話に見えます。しかし、同じ変化は、会社のツールを作る人、プロジェクトを導く人、学校や福祉の業務を整える人、個人で仕事を回す人にも起きています。
私はこれを、見た目のデザインではなく、仕事そのものを組み立てる「ワークデザイン」の変化だと考えています。
AIで制作は速くなっても、目的と判断は自動では決まらない
私自身、AIを使った開発や制作で、以前なら1か月単位で考えていた作業が、2時間ほどで初稿まで進むことがあります。設計案、文章、画面、フロー図まで、一気に並びます。
ところが、その後に「どの方向を採用するか」を決めるため、2日、3日と考えることがあります。
これはAIが遅いからではありません。作る時間が短くなり、これまで制作工程に隠れていた判断の重さが見えるようになったからです。
「1か月が2時間」はAIの性能を競う数字ではありません。初稿が速くても、目的、採用判断、公開責任まで自動で終わるわけではない、という失敗と修正から得た学びです。
AIは「A案もB案もC案もあります」と提案できます。しかし、地域のお客さまに分かりやすいのはどれか、先生や福祉職員が続けられる運用はどれか、予算と時間の中で何を捨てるかは、現場を知る人が決めます。
国際労働機関(ILO)の2025年更新も、生成AIの影響を受ける仕事の多くは、丸ごとなくなるより仕事内容が変わる可能性のほうが高いと整理しています。だから、「AIに奪われるか」だけを見るより、「自分の判断をどこへ残すか」を考えるほうが実務的です。
デザインは見た目ではなく、成果へつなぐ仕事の設計である
お客さまが欲しいのは、ロゴそのものでも、アプリそのものでもありません。
欲しいのは、「告知が伝わる」「事務作業が減る」「申し込みやすくなる」「学ぶ人が迷わない」といった生活や仕事の変化です。
Design CouncilのDouble Diamondも、デザインを、課題を広く見つけ、何を解くかを定め、複数案を試し、届けるまでの過程として示しています。装飾はその一部にすぎません。
デザインを頼める人には、サイトや資料まで任せたくなる
顧客の立場で考えると、デザインとWebサイト、提案資料、SNS画像は、別々の仕事ではありません。自分たちの事業や考え方を理解してくれた人に、できればまとめて相談したいものです。
「この人なら、私たちがどう見られたいかを分かってくれる」と感じてもらえれば、ロゴだけでなく、ホームページや資料作成、申込フォーム、発信用の画像まで頼まれる機会は増えていくと私は考えています。
そこでAIが力を発揮します。デザイナーが決めた方向性をもとに、文章、構成、画像案、Webページの初稿まで短時間で広げられるからです。もちろん、AIが作ったものをそのまま出すのではなく、スマートフォンで読めるか、申し込みまで迷わないか、内容が事業の実態と合っているかは人が確かめます。
だからAIは、デザイナーを不要にする道具というより、デザインの判断をホームページや資料など、ほかのクリエイティブまで一気に形にするための最強の武器になり得ます。
この意味では、デザイナー、経営者、プロジェクトリーダー、エンジニア、マーケターの役割は近づいていきます。全員が「何を作るか」より先に、「どんな変化を作るか」を考えるからです。
IPAが2026年4月に改訂したデジタルスキル標準でも、AI時代の変革を進める役割として、目的と提供価値、関係者、仕組みをつなぐビジネスアーキテクトやデザイナーの役割が見直されています。技術は手段です。仕事の設計がなければ、便利な道具を増やしても現場は楽になりません。
AIは初心者を助け、経験者の判断も増幅する
AIがあると、経験は不要になるのでしょうか。私は、そうは考えていません。
カスタマーサポート担当者5,172人を調べた『The Quarterly Journal of Economics』の研究では、AI支援により平均15%の生産性向上が報告され、特に経験の浅い担当者で効果が大きくなりました。AIが、熟練者の対応パターンを、経験の浅い人にも使いやすくしたためです。
ただし、これは1社・1職種の研究です。あらゆる仕事が15%速くなるという意味ではありません。また、その仕組みでも、人が最終的な対応権限を持っていました。
ここから学べるのは、「初心者か経験者か」の勝負ではなく、役割の組み合わせです。
- 経験の浅い人
AIでたたき台を早く作り、先輩や利用者の反応から、判断の理由を学ぶ。 - 経験のある人
過去の失敗、相手の事情、見落としやすい危険をAIへ渡し、案の質を上げる。 - リーダー
採用基準とやめる基準を先に決め、案が増えても迷走しないようにする。 - チーム
結果を記録し、「なぜ選んだか」を次の人が使える知識として残す。
AIは経験を消すのではなく、経験を言葉にして、チームへ渡せる人の影響を広げる道具になります。同時に、AIの答えを信じるだけでは経験になりません。現場で試し、結果を見て、焦らず直す。その繰り返しが必要です。
明日からは「AIに任せる・人が決める・結果を確かめる」を分ける
難しい変革計画から始める必要はありません。明日やる仕事を一つ選び、A4一枚を三つに分けてください。
検索、整理、初稿、比較表、画像案、コード案など、速く繰り返せる制作。
目的、対象者、優先順位、予算、公開可否、相手への配慮、最後の責任。
事実、動作、安全性、読みやすさ、現場で続くか、相手に変化が起きたか。
例えば、交流会の告知なら、AIに見出しと投稿案を作らせます。人は「初参加の人の不安を減らす」という目的と、日時、料金、表現を確認します。公開後は、申込み数だけでなく、質問が減ったか、当日迷う人がいなかったかも見ます。
業務アプリなら、AIに画面案やコードを書かせます。人は、誰が使うか、どの情報を扱うか、権限と例外時の対応を決めます。最後にPCとスマートフォンで動かし、本当に作業時間や入力ミスが減ったかを確かめます。
15分で作る「ワークデザインメモ」
- 明日、繰り返す仕事を一つ書く。
- その仕事で助けたい人と、増やしたい時間を一文で書く。
- AIに任せる制作を三つまで選ぶ。
- 人が決めることを、担当者名と一緒に書く。
- 結果を確かめる日時と方法を一つ決める。
影響が外部へ出る操作ほど、人の最終確認、取り消し方法、記録を残します。「何でもAIへ」ではなく、「どこまでなら安心して任せられるか」を設計することもワークデザインです。
AI時代に必要なのは、すべてを自分で作る力でも、すべてをAIへ任せる勇気でもありません。
作る、決める、確かめるを分け、AIと人を一つの仕事として整える力です。
それができれば、AIで生まれた時間を、相手と話すこと、教えること、支えること、次の挑戦を考えることへ戻せます。仕事を速くする目的は、仕事を増やすことではなく、人の自由度を増やすことです。
よくある質問
Q. AIが進化すると、デザイナーは不要になりますか?
制作だけを役割にすると、AIへ移る工程は増えます。一方で、課題を見つけ、相手の期待を整理し、どの案を届けるか決める役割は残ります。デザイナーの仕事が消えると断定するより、見た目の制作から、認識と仕事の設計へ役割が広がると捉えるほうが現状に合います。
Q. AIを使うと、若い人が経験を積めなくなりませんか?
AIの答えをそのまま出すだけでは、判断経験は増えません。たたき台を速く作り、「なぜ直したか」「結果はどうだったか」を先輩や利用者と振り返る仕組みを組み合わせます。AIで練習回数を増やし、現場の反応で学ぶ設計が大切です。
Q. 小さな会社や個人でもワークデザインはできますか?
できます。組織図や大きなDX計画は不要です。まず、時間がかかっている仕事を一つだけ選び、AIに任せる部分、人が決める部分、確認方法を一枚に書いてください。小さく試し、毎週一つずつ直すほうが続きます。
地域事業者、学校、福祉施設、個人事業主の方へ。告知、資料づくり、事務作業、顧客対応、業務アプリ開発など、いま重い仕事から始められます。AIツールの説明だけで終わらず、誰を助け、何を任せ、誰が決め、どう確かめるかまで具体化します。
自分の仕事の分け方を相談する参考にした主な資料
- Design Council: The Double Diamond
- IPA: デジタルスキル標準 ver.2.0
- IPA: ビジネスアーキテクトの実践
- ILO: Generative AI and Jobs — A 2025 update
- The Quarterly Journal of Economics: Generative AI at Work
この記事は2026年8月6日時点の公開情報と、AI相談の運営現場で得た経験を基にしています。研究の数値は対象となった職種・組織の条件に左右されます。AI製品、制度、働き方は変化するため、導入時は最新の公式情報と、自分の現場での小さな検証を確認してください。